Question. 童謡あそびは言葉の能力を育ててくれるのか?
「音楽や童謡あそびは、どんな点から子どもの発達にメリットがあるのだろう?」
自身の子育ての経験を通じて浮かんだこの疑問に対する答えを既往研究から探っていくと、
- 音楽(教育・訓練)は子どもの脳神経を構造的に発達させてくれる(Vol.1記事より)
- その効果は7歳以前が有利(Vol.2記事より)
ということがわかりました。
私自身、童謡の歌遊びやリズム遊びを通じて「わが子の語彙が増えた!」と日々実感しています。この子育ての経験から得た「童謡をうたって、わが子の言葉が育った」という感覚は科学的に説明できるのでしょうか?
この疑問に答えるべく、本記事では、「音楽教育による言語発達への影響」のテーマで深堀し、関連する科学知見を紹介し、子育てへのヒントとなる情報をご紹介します。
音楽と言語では、共通の脳のネットワークを使う
2016年に発表された研究[1]によると、生後9ヶ月の乳児に親子で一緒に音楽に合わせて体を動かす、4週間にわたる能動的な音楽レッスンを行った場合、音楽だけでなく言語のリズムに対する脳の処理能力(予測力)も向上することが実証されています。この理由について、論文では、脳の予測能力の向上と共通する脳回路の活用という2つの観点から説明しています
脳の予測力向上
親子で能動的に、3拍子のワルツのリズムを体験したことで、脳のより高次の領域が刺激され、音の規則性を素早く見つけ出す認知能力そのものが底上げされ、脳は「次はこういう音が、このタイミングで来るだろう」と無意識に先読みできるようになるそう。
さらに面白いことに、その効果は音楽だけでなく、言葉のイントネーションや強弱といった複雑な音のパターンを瞬時に見抜き、次の展開を予測する能力も同時に向上し、初めて聴く外国語のリズムに対しても「次に来るタイミング」を正確に予測できるようになったとのこと。
つまり、音楽のトレーニングによって「時間的な流れを予測する脳の全般的なスキル」が手に入り、そのスキルがそのまま言語の聞き取りにも応用できたということです。
共通する脳回路の活用
音楽と言語は、どちらも「時間の経過とともに変化する音の構造」を捉える必要があり、脳の同じ回路を共有するため、能動的な音楽体験がこの共通の脳回路(特に前頭前野の認知ネットワーク)を効率よく発達させたため、音楽と言語の両方の処理能力が同時に高まったと論文では説明しています。
音楽も言語も、生まれもった素質が学習効率に影響する
また脳科学の分野では一般に、「楽器の練習を重ねたから脳が変化した(後天的な可塑性)」という後天的側面を関心対象とされていましたが、脳の先天的な素質に着眼した研究[2]においても、音楽と言語の共通性が示唆されていました。
Zatorre (2013) の論文[2]は、脳半球ごとの音響処理の得意分野(左:時間的変化、右:周波数)に違いを明確に説明し、この違いが音楽と言語の特性に対応しているとしています。ただし、音楽と言語ではどちらの学習においても、共有する聴覚・運動ネットワーク(弓状束)によって左半球と右半球が強固に連携して働くと説明しています。
その上で、トレーニング前の脳の構造的素質(効率的な脳の初期構造)が可塑性による学習速度を左右する点は音楽と言語で共通していると指摘しています。
どんな歌が言語の発達により効果的なのか?
「音楽」と「言語」では働く脳の領域が共通するため、音楽の学習や経験が言語の発達に良い影響があるということはわかりました。では、幼い子どもと触れ合う「音楽」といっても、遊び歌や子守歌など、様々なタイプがあります。どんな歌や音楽がより子どもの発達にとって有利といえるのでしょうか?
この問いについては、歌の種類の違いによって、赤ちゃんの脳と体の反応、さらには発達への影響が異なることを明確に比較検証したNguyen, Tらの研究[3]にヒントが隠されていました。
この研究は、生後7か月の乳児を対象に、遊び歌と子守唄を母親の生歌で聞かせ、それに対する神経的・運動的反応と、言語発達との関連性を検証したものです。
この結果は、
- 遊び歌よりも、規則的で繰り返しパターンの多い子守唄の方が神経追跡能力が高い
- テンポが速く音程の変化が大きい遊び歌の方が、赤ちゃんは体をより活発に、リズムに合わせて動かす運動的反応が良い
- 遊び歌に対する反応だけが生後20か月時点での語彙数の多さと正の相関を示した(子守歌に対する反応は将来の語彙数との明確な関連はない)
ことを示しています。
【まとめ】音楽によって、言葉のリズムを聴き取る力も一緒に鍛えられる
この記事で紹介した研究のポイントを整理すると以下の通り。
音楽(童謡)あそびは言葉の能力を育ててくれる
- 能動的な音楽体験は、音楽と言語で共通する脳回路を効率よく発達させるため、両方の処理能力を同時に高めることができる
- 音楽のトレーニングによって「時間的な流れを予測する脳の全般的なスキル」が手に入り、そのスキルがそのまま言語の聞き取りにも応用できる
- 生まれ持った脳の構造的素質が神経可塑性によるその後の学習効率を左右する点は音楽と言語で共通する
遊び歌が言語の発達により効果的
- テンポが速く音程の変化が大きい遊び歌に対する反応は生後20か月時点での語彙数の多さと正の相関を示した(遊び歌への反応の良さが語彙力に影響する可能性がある)
【考察】科学知見を子育てに取り入れて「言語能力」の向上を図る
ここでは、今回のレビュー結果を踏まえ、得られた科学知見を自身の子育てにどのように活かせるかについて考察し、アイディアを整理していきます。
アイディア①:メロディやフレーズの繰り返しの多い童謡で先読み力を鍛える
紹介した研究[1]では、音楽によって言語のリズムに対する脳の処理能力が向上する理由について、「脳の予測能力の向上」という観点をあげて説明しています。
日本童謡作曲界の巨匠である中田喜直氏は「童謡は繰り返したほうが安定し、覚えやすい」とのお考えがあったそう。実際に童謡は、幼い子どもも歌えるように、メロディやフレーズに繰り返しを聞かせて、音程の幅も抑えて作られているものが多いですよね。
音の規則性を素早く見つけ出す認知能力のトレーニングの教材としては、シンプルでリズミカルな幼児向けの童謡が最適なのではないでしょうか?
アイディア②:3拍子の童謡をワルツのステップで踊る
また、小さい子どもにとって、2拍子や4拍子の音楽はリズムをとらえやすく、3拍子の音楽は、複雑にきこえるそう。確かに、日本の童謡は、この観点から2拍子や4拍子で作られていることが多いようです。
しかし、研究[1]の実験では、あえて認識が難しい「3拍子のリズム」を扱っていました。親子で能動的に複雑な「3拍子のリズム」を体験したことで、脳のより高次の領域が刺激され、乳児の「複雑な音の塊から時間的なルール(リズムパターン)を抜き出す能力」が向上したと主張しています。
そういうことであれば、日々の童謡あそびの中でも3拍子のワルツのリズムを子どもと一緒に味わって、リズムパターンを抜き出す能力をトレーニングしていきたいところです。
日本の童謡には、3拍子の曲がないかといえばそんなことはありません。
- 「ぞうさん」
- 「こいのぼり」
- 「うみ」
- 「朧月夜」
- 「赤とんぼ」
など、有名曲にも3拍子で作られた童謡は多くあります。
中でも、小さい子どもと一緒にワルツの3拍子のリズムを味わう、という点でおすすめはこちら。
この曲はピアノ伴奏では、「深い響き」と「軽快な跳ね」のギャップが作られているため、「ズンチャッチャッ」という3拍子のビートを子どもも感じやすく、心地よいゆったりとした優雅なワルツの質感を味わうことができます。
3拍子の童謡に、ワルツのステップを踏んで動きをつけてみるのもいいのではないでしょうか?
「前、横、閉じ、後ろ、横、閉じ」と規則的に動くボックスステップであれば、子どもにとっても覚えやすく、リズムパターンを動きとともにとらえるのに良いトレーニングになりそうです。
そうなれば、研究論文のいうように、「言語と音楽で共通の脳回路を効率よく刺激させることにつながり、言語能力のアップにもつながるのでは…」と期待してしまいますが、結果はどうでしょうか?実践あるのみ!
アイディア③:手遊び歌をカスタマイズ
研究[3]によれば、遊び歌への反応がその後の語彙力にプラスの影響があったとのこと。紹介した研究の中では、その因果関係まで解明された訳ではありません。それでも、遊び歌に動きをつけて反応をする脳の分野の発達が、語彙能力の獲得に役立った可能性が考えられます。もしそういった可能性があるのであれば、「日常から音楽のメロディやリズムに対して能動的に体を動かすような遊びを積極的に取り入れていきたい!」というのが親心です。
また、研究[3]の説明によれば、子どもが動きだしたくなるような遊び歌は、「テンポが速め」で「音程の変化が大きい」というのが特徴とのこと。音楽やリズムに合わせて手や身体を動かすには、子守歌のように、繰り返しが多く安心して聴いていられる曲よりも、ある程度のリズムや音程の変化をつけられる情報量が多めのメロディの方が適しているようです。
日本語の遊び歌について調べてみると、保育施設などで歌われる曲数は結構な数があるようですが、私が子どもとよく遊んでいるのは以下のような曲です。
- 「ひげじいさん」
- 「ぐーちょきぱー」
- 「いとまきのうた」
- 「大きな栗の木の下で」
- 「むすんでひらいて」
- 「お弁当箱のうた」
確かに、動きに慣れてくるにつれて、リズムを速めたり、遅くしたりという変化をつけると子どもも喜んで、手遊びに熱中してくれます。
リズムの変化だけでなく、変調して明るく歌ったり、暗いムードに変えたりと、その時々で手遊び歌をカスタマイズしてみるのも、子どもと一緒に盛り上がること間違いなし。
また、こうしたカスタマイズは、音楽と言語で共通する脳回路の活用につながり、脳の発達という観点からもいいかもしれません。
まとめ
「音楽体験を通じて、音楽能力とともに、言語能力も伸ばせる可能性がある」
なんと一石二鳥のおいしい話でしょう。
今回のレビューを通じて、日々の子育てのアイディアが色々と湧きあがってきました。
ただ、「いざ、実践!」と思っても、親ができることは、普段のうた遊びのときに、ちょっと動きを足してみたりとか、ちょっとした工夫を加えるだけです。童謡遊びの際にリズムや繰り返しパターンに、ほんの少しだけ意識をかえて、まずは、重く考えず、楽しみながらやってみるつもりです。
また、今回のテーマである「言語能力の向上」という観点を離れても、幼少期に童謡で繰り返しパターンやリズムをとらえる左右の脳のトレーニングを重ねることで、得られる効果は絶大に思います。
つまり、脳がパターンを予測する能力が鍛えられ、より情報量の多いクラシック音楽などを聴いたときに、予測を外れて展開するリズムや音色の変化に感動する力も向上するのではないでしょうか?
「純粋に音楽を楽しむことができる力」
それこそ、子どもへの一生ものの素晴らしい贈り物のように思います。
引用論文
[1] Zhao, T. C., & Kuhl, P. K. (2016). Musical intervention enhances infants’ neural processing of temporal structure in music and speech. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(19), 5212-5217. doi.org
[2] Zatorre, R. J. (2013). Predispositions and plasticity in music and speech learning: Neural correlates and implications. Science, 342(6158), 585–589. https://doi.org/10.1126/science.1238414
[3] Nguyen, T., Clasen, L., Schleger, F., & Hoehl, S. (2023). Sing to me, baby: Infants show neural tracking and rhythmic movements to live and dynamic maternal singing. Developmental Cognitive Neuroscience, 64, 101313. doi.org


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