Question. 音楽をいつまでに始めれば頭がよくなるのか?
幼児期の音楽教育は、音楽的能力や創造的思考の発達に限らず、学業成績や、社会情緒的能力、言語習得に対しても多大な貢献をしていることがこれまで多くの研究で認められてきました。では、ここでいう、「幼児期」とは具体的にいつまでのことなのでしょうか?
本記事では、Vol.1に引き続き、音楽に関わる知覚と神経の可塑性(経験や学習、環境刺激に応じて構造や機能を変化させる能力;あたまのやわらかさ)というテーマで、「音楽をいつまでに始めれば頭がよくなるのか?」という問いに関連する科学的視点を紹介し、自身の感想を交えて掘り下げてみたいと思います。
脳の可塑性と感受性期(クリティカルピリオド)
幼少期に音楽訓練を受けることで、脳の構造的が発達がみられたという報告は、Vol.1の記事でも示した通り。
ただ、「いつまでに始めると頭がよくなるか?」という問いを考えていくと、もう一つの疑問が湧いてきます。それは、「その時期を過ぎた場合、脳の発達は期待できないのか?」、という問いです。
まずは、この疑問について、希望をもてる研究成果を先に紹介します。
大人の脳に可塑性はあるか?
一般的に脳の発達には「感受性期(クリティカルピリオド)」があり、幼少期を過ぎると脳の構造的な変化は難しくなると考えられてきました。
しかし、Eleanor Maguireらは、複雑なロンドンの街並みを記憶しているタクシー運転手の脳の記憶を司る海馬の体積が、一般の人よりも有意に大きく、さらにドライバーとしての経験年数が長いほど海馬の体積の増加が顕著であることを突き止めました[1]。
この結果は、必要に迫られた環境に身を置くことで、大人であっても学習と実務の積み重ねによって直接的に脳の構造を再編できるということを示唆しています。
音楽訓練の感受性期の特殊性
ただし、言語や音楽などの習得においては、幼少期は確かに非常に敏感な時期であることは間違いないようです。
EJ Whiteらの研究(White et al., 2013)[2]では、「感受性期」を特定の年齢で閉じるものではなく、生涯にわたって学習と可塑性が続く可能性を強調した概念として定義していますが、音楽教育や言語学習においては、7歳頃までの早期教育が脳の構造変化に特に有利な影響を与えるとしています。
Virginia Penhuneらは、「なぜ早期(7歳前)に音楽を始めることが、脳の発達に特別な影響を与えるのか」の解明を試み、その研究[3]の中で、7歳より前に音楽訓練を始めた人は、それ以降に始めた人と比較し、「トータルの練習量」が同じであっても、運動機能と聴覚機能を結びつける脳のネットワーク(白質)がより強固に発達していることを明らかにしています。
特に、右脳と左脳をつなぐ「脳梁(のうりょう)」が発達することで、手先の器用さやリズム感の基礎体力が非常に高いレベルで形成されるとしています。
つまり、脳が発達途上にある感受性期に訓練を受け、脳が刺激を受けることで、脳の構造そのものが「音楽を処理しやすい形」に最適化され、その後の学習効率を一生涯高めてくれる役割を持つことを示しています。
まとめ:音楽教育は7歳までに始めると効果が高い
脳の可塑性という観点からいえば、年齢によらず脳の特定の部位を使い続けることで細胞が維持・強化されるもののようです。大人になっても「熱心な学習によって脳を物理的に作り変えることができる」というのはとても喜ばしいことですよね。
ただし、脳が発達途上にある感受性期に音楽訓練を受け、脳が刺激されることで、脳の構造そのものが「音楽を処理しやすい形」に発達することを既往研究は示しています。
このことから、音楽、言語、運動のように複雑な連携が必要なスキルは、7歳までの土台作りがその後の伸びしろを決定づけるというのも紛れもない事実のようです。
【感想】レビュー結果を踏まえて、子どもと自身の過ごし方を考える
これらの既往研究の成果を考えてみると、脳を構造的に発達させ、子どもの一生涯の資産になる可能性があるのであれば、「幼少期の頭がやわらかいうちに音楽教育に触れる機会を設けてあげたいな」というのが、親としての所感です。
ただ、脳の発達も重要ですが、小さい時期に何より大切にしたいのは、幸せで楽しい時間です。
わが子も2歳を迎えましたが、今は無理やりやらせて苦痛に感じさせるような「訓練」としてではなく、子ども本人も楽しめるあそびを通じて、生涯音楽を楽しめるような土台作りができればいいなと思っています。
音楽教育・音楽訓練というと敷居が高いですが、まずは身近な童謡のリズムやメロディにあわせて歌う、あわせて簡単な楽器を演奏させる、など、子どもとの日常の童謡あそびを通じて、音楽に親しむということから続けていきたいところです。
また、ロンドンのタクシードライバーの海馬が経験年数に応じて増大した事実は、大人の私たちにとって大いなる希望ですよね。感受性期をとっくに過ぎてしまった私も、語学の学習やピアノ演奏の訓練を継続し、子どもの発達に負けず、今後も脳構造の強化を図っていきたいと思いました。
引用文献
[1] E.A. Maguire, D.G. Gadian, I.S. Johnsrude, C.D. Good, J. Ashburner, R.S.J. Frackowiak, & C.D. Frith, Navigation-related structural change in the hippocampi of taxi drivers, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97 (8) 4398-4403, https://doi.org/10.1073/pnas.070039597 (2000).
[2] White EJ, Hutka SA, Williams LJ and Moreno S (2013) Learning, neural plasticity and sensitive periods: implications for language acquisition, music training and transfer across the lifespan. Front. Syst. Neurosci. 7:90. doi: 10.3389/fnsys.2013.00090
[3] Penhune VB. Understanding Sensitive Period Effects in Musical Training. Curr Top Behav Neurosci. 2022;53:167-188. doi: 10.1007/7854_2021_250. PMID: 34435343.


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